医用画像・画像処理・画像解析

提供: 生体医工学ウェブ辞典
This revision was approved by Editor001.
ナビゲーションに移動 検索に移動

原口 亮
兵庫県立大学 大学院情報科学研究科
原稿受付日:2021年8月15日 原稿完成日:2021年8月16日
担当編集委員:大城 理(大阪大学大学院基礎工学研究科)

英語名:medical imaging

医用画像とは,医療(診断・治療)や医学・医工学研究に用いられることを目的として取得・処理・解析される画像データのことである.

概要

医療や医学研究において,図(スケッチ)を用いて人体構造を表現することは中世より広く行われていた.人体解剖を行った上で科学的な視点で詳細な人体構造のスケッチを残したヴェサリウスやレオナルド・ダ・ヴィンチの例が挙げられる.

レントゲンによるX線の発見をきっかけとして,外部から直接観察できない人体内部構造を科学技術により可視化したX線写真が診断に広く用いられるようになった.

その後,コンピュータ技術の発達により,人体内部構造を3次元的に可視化するCTやMRIが開発された.さらに放射性トレーサーを利用して人体内部の機能情報を3次元的に可視化するPETやSPECTも実用化された.

人体内部の構造や機能をデータ化し画像として可視化するプロセスのことを医用イメージング,医療者が知覚・認知しやすくすることを目的に画像データを加工することを医用画像処理,医用画像そのものあるいは複数の医用画像を組み合わせて新たな情報を抽出することを医用画像解析と呼ぶが,医用画像処理と医用画像解析との間に明確な境界線はない.

工業分野における画像処理と比較しての医用画像特有の特徴として,対象が生体であり画像取得の条件を変化させることが困難であること,計測エネルギーが小さくS/N改善が限られること,診断上有効な情報を引き出すことが強く要求され問題指向的な面が強いこと等が挙げられる[1]

様々な医用画像

医用画像は,画像化に用いる計測手法により分類されることが多い.

  • X線投影
  • X線CT
  • MRI
  • 超音波
  • シンチカメラ
  • PET
  • SPECT

医用イメージングの具体例

これまでに様々な計測手法や目的に応じた画像診断装置が実用化されている.画像診断装置の分類や様式のことをモダリティと呼ぶこともある.

  • デジタルラジオグラフィ
  • X線アンギオグラフィ装置
  • マルチスライスCT
  • dual energy CT / スペクトラムイメージング
  • T1強調 / T2強調 / 拡散強調
  • IVUS / 3Dエコー / ドップラーエコー
  • PET-CT
  • SPECT-CT

医用画像処理の具体例

装置により画像として可視化されたデータに対して,医療者が病変を知覚・認知しやすくすることを目的とした画像データの加工が行われる.

  • デジタル画像として扱うための処理:標本化・量子化
  • 画素単位の処理:ヒストグラム,階調変換,ガンマ補正,二値化,ウィンドウ処理,擬似カラー表示
  • 空間フィルタリング:ぼかし,先鋭化,エッジ検出,ガウシアンフィルタ,ラプラシアンフィルタ,Vフィルタ
  • 周波数フィルタリング:ローパスフィルタによる平滑化,ハイパスフィルタによるエッジ検出
  • 多次元画像処理:最大値投影,断面像生成,ボリュームレンダリング,背景差分像生成,時空間断面像生成

医用画像解析の具体例

医用画像から新たな情報を抽出するために様々な画像解析が行われる.

  • マンモグラフィからの石灰化検出
  • 冠動脈造影像からの狭窄率測定
  • 腹部CT像からの体脂肪率測定
  • 拡散強調MRI画像からのトラクトグラフィ
  • 胎児エコー像からの胎児体長測定
  • PET-CT画像からの過去画像との比較による腫瘍検出

コンピュータ支援診断 ( Computer Aided Diagnosis; CAD )

医用画像解析からさらに発展して,コンピュータを用いて医用画像を定量的に分析し,医師が分析結果を第二の意見として利用するコンピュータ支援診断 (Computer Aided Diagnosis; CAD) の概念が土井らにより提唱されている[2]

工学的・情報学的側面から見た医用画像・画像処理・画像解析の特徴

一般的な画像処理と比較した場合の医用画像の特徴について述べる.

多階調

一般的なPCが画像をRGB各色8bit 256階調で扱うのに対し,医用画像ではグレースケール10bit (1024階調)やグレースケール12bit (4096階調) の多階調画像データが多用される.したがって,医用画像をディスプレイに表示するには,医用画像専用のハードウェアを用いるか,あるいは階調変換処理が必要である.

ディスプレイ表示のための階調変換処理は,グレースケールにおいて輝度値の中心(ウィンドウレベル)と輝度値の幅(ウィンドウ幅)の2つのパラメータを設定することにより処理が行われ,ウィンドウ処理と呼ばれる.ウィンドウ処理は画像中の観察領域(臓器など)を抽出する副次的な効果もあり,例えばCT画像において肺領域の細かな変化を観察するのに適したウィンドウレベルとウィンドウ幅の設定値を肺野条件と呼ぶ.

ファイルフォーマット

様々なモダリティや画像サーバの間で画像転送が可能となるように,国際標準規格としてDICOM(ダイコム)フォーマットが定められ利用されている.画像規格としてのDICOMフォーマットは,1つのファイルの中に複数枚の画像と撮影条件などの付加情報を含めることができる.DICOMファイル中の画像データのフォーマットとしては,非圧縮のビットマップ(RAW),lossless JPEG,機器ベンダー独自形式の可逆圧縮,JPEG などが用いられる.DICOMファイル中の付加情報はタグとも呼ばれ,画像データの階調数やエンディアン,患者情報,撮影時刻,撮影時のパラメータなどが格納されている.

形態画像と機能画像

医用画像は形態画像と機能画像に大別される.形態画像は,画像中の各ピクセルが放射線透過率・プロトン密度・音響インピーダンスなど物理的性質を反映しており,同じような輝度値を持つ画像領域を抽出することで臓器や病変の形状を観察することができる.一方,機能画像は,画像中の各ピクセルが血流速度・糖代謝などの機能情報を反映しており,特異的な輝度値を持つ画像領域を抽出することで異常が生じている位置を特定することができる.

画像再構成

一般的な画像計測の場合,その基礎にあるのは光学である.一方,医用画像計測の場合は,その基礎にあるのは電磁気学・音響学・熱力学・生化学など多様である.一般的な画像計測において対象の3次元位置を推定する場合,コンピュータビジョンなど幾何学・知識ベースの推定手法がよく用いられる.一方,医用画像計測においては対象の3次元位置や物性値の3次元分布を特定することはほぼ必須といってもよい高いニーズがあり,トモグラフ像から復元を行う逆解析技術が多用される.生体内部の物性値の分布を断層像として得ることを画像再構成と呼び,様々なアルゴリズムが提案されている.

モデリング

医用画像から診断上有用な情報を引き出すために,モデリングは必須である.例えば肺CT画像から肺がんを検出する場合,あらかじめ取得しておいた肺がん画像と照合する・肺がん領域を強調し観察しやすくするような空間フィルタを設計する・専門医の読影プロセスを決定木として設計する・画像特徴量を抽出して比較する等,様々な手法で病変のモデリングを行う.病変のモデリングは,信号処理の観点からは病変部位を信号,正常部位を雑音とみなすことに相当する.一方,正常な形状をモデリングすることで異常を検出するアプローチも試みられているが,一口に正常と言っても個体差が大きいことから,個体差まで含めた統計的形状モデリングが用いられる[3]

画像データベース

一般的な画像解析・画像認識の研究開発においては,2010年代以降の深層学習の普及に伴い,Open Image Dataset など学習に用いるための大規模なアノテーション付き画像データセットが整備されている.一方,医用画像解析の研究開発において大規模画像データベースは,プライバシーの問題や専門知識を要するアノテーション作業の難しさのため長らく未整備であったが,2019年頃より徐々に整備されつつある.代表的なものに The Cancer Imaging Archive がある.

関連項目

外部リンク

参考文献

  1. 土井邦雄,医用画像とコンピュータ支援診断,映像情報メディア学会誌 Vol. 65, No.4, pp.428-431 (2011)
  2. 小畑 秀文,新学術領域「計算解剖学」の目指すところ,Medical Imaging Technology, 2011, 29巻, 3号, p.99-103 https://doi.org/10.11409/mit.29.99